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総長訓示式辞

三五 終戦詔勅を拝しての訓示

訓 辞
昭和二十年八月十五日畏くも今上陛下に於かせられては大東亜戦争の終結を宣し給ふ
惟ふに大東亜戦争開始に当り其の宣戦の詔書には
「朕カ陸海将兵ハ全力ヲ奮テ交戦ニ従事シ朕カ百僚有司ハ励精職務ヲ奉行シ朕カ衆庶ハ各々其ノ本分ヲ尽シ億兆一心国家ノ総力ヲ挙ケテ征戦ノ目的ヲ達成スルニ違算ナカラムコトヲ期セヨ」と仰せられしにも関らす醜敵を克服し得すして竟にこの結末をみる。将兵も有司も衆庶も陛下の御信倚に沿ひ得さる唯々恐懼千万言ふに辞なく只管 陛下の御真影に伏坐おろかみ奉るのみ。
この心境のうちにあつて余は九州帝国大学教職員に対し訓示の必要を認む共に相省み共に相誓はんか為なり
今次の無条件屈服の原因は如上の御宣示に省み九州帝国大学に職を奉する有司たるの立場よりこれをみれば有司果して励精職務を奉行せしや否やの点にあり。百僚有司は我か国指導者層に属し殊に最高学府に職を奉する者は何れも指導者たるへきこと言ふを俟たす。然るに従来百僚有司か果して励精職務を奉行せしや指導者たるの任務を完うせしや否やに就ては尚自省反省の余地あり。既に古く明治二十年七月三十日より官吏服務規律施行せられたりと言ふも同規律は稍々もすれば官吏服務の準則としてのみ取り扱はれ官吏の践む可き道たるの意識に欠くる所あり従つて従来官吏は必ずしも道を聴きて之を行ふの風なく官場の気風又国民の儀表的指導者たるの気魄に乏しかりき。
茲に鑑みて政府は昭和十九年一月四日戦時官吏服務令並に文官懲戒戦時特例を発布し「凡ソ官吏ハ国体ノ本義ニ徹シ至誠一貫諧和一致匪躬ノ節ヲ致シソノ職務ヲ奉行スルヲ以テ本分ト」し、官吏の服務は国体の本義に徹する道の実現なることを明かにせり。本令は第一条より第七条に亘り官吏に依る道義の実現の具体的事項を明示し其の全文に溢るゝ精神は悉く官吏道の実現に在り。殊に第六条に官吏は修身斎家、率先垂範以て世の儀表たるに力むべしとあり。教育の任に当る者の将に眷々服膺すべきものたり。我か九州帝国大学教職員は此の点に留意し此の際一層自省し反省するの要あるへし元よりその自省と反省との目標は大学令第一条に明示せられ帝国大学の任務たる国家思想の涵養に向けらるへし国家思想の涵養とは畢竟するに皇国思想の涵養なり一切の学の攻究は皇国思想の涵養に発足すへきものなることを正しく銘記すへし。今にして皇国思想を明徴にし之を涵養するの準備なくんば何時の日か今次の戦訓を活かし得ん。最高学府たる我か九州帝国大学の戦後に処するの道は特に重且大なりといふへし。教職員各自は宜しく自省反省以て新日本建設に協力一致邁進すへし。自然科学研究者といはず人文科学研究者といはず畢竟道は一なり。斉しく皇国護持の道を邁進す。斯くしてこそ最高学府に職を奉ずる者の任務は全うせられたりといふへし。
余は九州帝国大学教職員の悉くか斯の如き任務完了の一念に反省しこの国難克服に勇奮せむことを望みて止まさるなり。
右之を訓示す
昭和二十年八月十六日          九州帝国大学総長 百 武 源 吾

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